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高血圧と漢方薬

「無症状高血圧症」はからだのバランスを整えて治す

よく、血圧が高いのに症状がないことがあります。これは高血圧に特有の症状がないだけであって、実際には、からだの不調を示す症状が起こっているのですが、症状がいつの間にか消えていたり、違和感を感じないのです。 しかし、陰液の不足が進み、バランスがくずれて活動エネルギーが相対的に高ぶり進むと、雲の上を歩いているような感じのめまいや頭痛、イライラ、のぼせなど、高血圧によくみられる症状が起こります。また、場合によっては、からだの先端部に栄養物質が行きわたらなくなるので、手足のしびれなども現れます。
 ただ、このような症状が長くは続かず自然に回復する場合には、自己調節機能がまだ正常に働いていると考えられます。ですから、この時期に、たまたま健康診断などで高血圧がわかったからといって、むやみに降圧剤を使うのは、必ずしもよいとはいえません。血圧が高いのに高血圧の症状がない「無症状高血圧症」に降圧剤を使うと、場合によっては、かえってバランスをくずすこともあるのです。
 中医学では、このような場合、単に血圧の数値だけに目を奪われることなく、陰液と活動エネルギーのバランスを調整するために治療を考えます。
「水分」がどこでどの程度不足しているかが治療のポイント
 活動エネルギーと「水分」である陰液のバランスがくずれると、からだは、血液の循環を改善して正常な機能を高め、バランスを回復しようとします。そのため、一時的に血圧が上がります。数値が常識的な範囲を超えなければ、血圧の上昇はからだの正常な抗病反応と考えられますから、無理に血圧を下げなくても、しばらくしてバランスが正常に戻れば血圧は下がります。ですから、一定期間の観察が必要なのです。
 例えば、疲れやすく、食欲などに問題があれば、「脾胃」の消化吸収や栄養代謝機能を考えて「補中益気湯」や「六君子湯」で不足した活動エネルギーを補ったり、「釣藤散」で活動エネルギーを補いながら、機能が高まりすぎないようにしたり、「十全大補湯」「人参養栄湯」「加味帰脾湯」などで活動エネルギーや血液を補うだけでも、血圧は正常に戻ります。
 しかし、回復することができずにこの状態が続くと、さまざまな内臓に影響が及ぶようになります。中でも、血液を調節する肝、からだの根源となる物質を貯える腎、活動エネルギーをつくり補充する脾胃の働きを障害しやすくなります。
 腎の陰液が不足して肝を養えなくなったり、肝の陰液が不足すると、肝の活動エネルギーが余り、相対的に少なくなった陰液から離れて上昇する(肝陽上亢)ので、頭が回るようにふらつき、頭痛やめまい、耳鳴り、顔面の紅潮、口が苦いといった症状が現れます。舌は深い紅色になり、苔は少ないか剥げてしまいます。脈は細く緊張し、脈拍数が多くなります。
 このような場合には、腎の陰液を補う「六味丸」に肝腎を調和させる「柴胡加竜骨牡蛎湯」をあわせて使ったり、肝の陰液を補う「七物降下湯」、腎の陰液を補って肝の火を抑える「知柏地黄丸」、腎と肝の陰液を補う
杞菊地黄丸」などを使って、活動エネルギーと陰液のバランスを回復します。

生命の根源となる物質が不足して起こる高血圧症

主に老化が原因で腎が衰えると、腎に蓄えられている生命の根源となる物質(陰精)が消耗されるため、血圧が高くなることがあります。このような場合には、「六味丸」で腎の陰精を補います。また、陰液の不足と活動エネルギーの低下が同時にみられるときは「八味地黄丸」を用います

足のつけ根がひきつるように痛い場合

内臓の働きが衰えたり乱れると、からだの中に余分な水分がたまったり、血液の流れが滞ります。これらは、からだに悪い影響を与え、高血圧症をさらに悪化させる物質(痰や瘀血)に変わります。瘀血は血行の停滞やうっ血のことです。この場合には、肝の熱を冷まして火を消します。また、体内にたまったすべての「廃水」である痰があるときには、不足した陰液を補うのが治療の原則です。「動脈硬化」は、このような物質が血行を妨げたり、からだの正常な機能を阻むために起こる症状です。特に、まだ若いのに太りぎみの人には痰が多いと考えられますので、注意が必要です。
 頭痛やめまいなどがあり、弦をピンと張ったような脈や、玉をころがすように速い脈があり、白くベタッとした厚い舌苔をともなうときは、痰があると考えられますから、これを取り除くために「半夏白朮天麻湯」、あるいは「防風通聖散」と「半夏厚朴湯」をあわせて使います。また、下腹部の痛みや生殖器の異常があり、舌に赤紫色の斑点が見られるときは「桂枝茯苓丸」あるいは「桃核承気湯」「冠脉通塞丸」を使って、血液の滞りを取り除きます。

高血圧に使用する漢方薬一覧

竜胆瀉肝湯・補中益気湯・六君子湯・釣藤散・十全大補湯・人参養栄湯・加味帰脾湯・六味丸・柴胡加龍骨牡蛎湯・七物降下湯・知柏地黄丸・杞菊地黄丸・八味地黄丸・半夏白朮天麻湯・防風通聖散・半夏厚朴湯・桃核承気湯・桂枝茯苓丸・冠脉通塞丸