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慢性疲労症候群

中医師から一言

からだはひとつのもので精神と肉体に分けられない

 肉体的な疲れは、分かりやすいのですが、精神的な疲れは、当人ですらなかなか気がつかないものです。 肉体と精神は別のもののように考えやすいものですが、決してそうではありません。分類上便宜的に分けただけのことです。病気には人の感情や思考することそのものが大きく影響しています。 たとえば怒りが爆発して、怒鳴り散らした後、ひどく疲れてしまいます。その引き金は「怒り」という感情が引いていることは確かなことです。

疲労の本質とは何か

「疲れ」は、からだの隅々までめぐっている「気」というエネルギーを消費することによって現れます。「気」は人間のすべての生理機能をさしていますが、この目に見えない働きも、実は栄養物という物質が変化したので「気」が働けば精微な栄養物質も消費されます。肉体を運動させれば体力を消耗して疲労することはよく分かりますが、精神活動も同様に体力を消耗することには、あまり注意が払われていません。肉体的な疲労には比較的早く気がつき、手当も早くできて、たやすく回復します。しかし、精神や情緒の疲労には気がつきにくく、また同じ刺激を積み重ねていくことが多く、知らず知らずのうちに回復がむずかしいところまで発展しやすいのです。

 この段階では、すでに「気」だけの病気ではありません。さらに、体内の必要不可欠な精微な栄養素が消耗され、回復に必要な栄養代謝の働きも低下して、補充がつかないままに疲労が進みます。

 慢性疲労症候群にみられる発熱は、「気」の機能亢進と栄養素の消耗によるもので、中医学では「内傷発熱」といっています。リンパ節の腫脹は、栄養代謝が円滑に進行しないために生じた病理産物が体液の流れを阻んでいる証拠と考えられます。これはまだ初期の段階ですが、各臓腑の機能の乱れが明らかになったものは、回復がかなり困難です。

さまざまな「疲労」の原因
 「疲労」の原因として考えられるものは数多くあります。そのうち代表的なものをいくつかあげてみましょう。

まず過労、働き過ぎです。とりわけ頭脳労働による過労が複雑な疲労に大きく影響していると考えられます。 次は精神・情緒によるものです。

中医学では感情を「喜、努、憂、思、悲、恐、驚」の七つに分類し、七情と呼んでいます。これらの情動が過剰になったり、あるいは、外界からの小さな刺激でも、累積すると疲労が発生し、次第に回復不能となります。精神と肉体は一体のものであることがよく分かります。 不規則な食事や不摂生な生活、過度の性生活、長期にわたる病気や病後の不養生も「疲労」の原因になります。

最後に、先天的なからだの基礎が十分でない場合があげられます。

「疲労」の予防はやさしいようでむずかしい

 「疲労」の原因を除くことが予防ですが、現代の社会、とくに都市社会にはなかなか取り除けない「疲労」の原因となるものが多くあります。都市で働く人に、心の健康状態が不調であると訴える人が増えています。住宅ローンの負担、出世観から来る過労、子供の過剰な学習、長時間の通勤、責任ある仕事、多様な人間関係、刺激の多い暮らしなど、「疲労」の原因はいたるところにあるのです。 簡単なようでいて、うまくいかない予防ですが、あえていえば「疲れ」をためないことです。少なくとも「疲労」を初期の段階で回復させて、深い病にまで進展させない心がけが重要です。まず、自分にあった休養のとり方や気分転換のしかたを見つけ、同時に今ままでの生活全体を見直して、改善していくことも大切といえます。 「疲労」の治療については、病態が多様であるために、よく問診をして病因・病機を考えて治療する必要があります。特に「気」の不足からもたらせれる「疲労」とは違って、慢性疲労症候群のように必要不可欠な栄養物の消耗、しかも回復困難な消耗を伴った「疲労」の場合、個別に応じた処方が必要となります。

伊藤良先生の一言